見えないものを操る香り
年齢を重ねるごとに、だれもが一年が短く感じられると言います。例えば小学生の頃は、これがいつまで続くのだろうと思うほど6年間がとんでもなく長い日々のように感じていました。しかし、今は時の流れに追い付かず、今年のカレンダーがもう半分を過ぎようとしていることに驚かされます。これらの理由は、10歳の子供は1/10年、60歳は1/60年だからだよ、と聞かされますが、本当に砂時計の早さは、昔も今も変わってないのかと疑ってしまいそうです。
もちろん、時間はいつでも誰にでも同じように与えられます。また経験的に、楽しい時間は早く過ぎ、つまらない時間は長く感じる。誰もが経験したことのある事象です。この時間の経過に早さや遅さが感じられる原因は、時間の経過に対して向けられる注意や意識だと考えられています。では、この目には見えない時間の感覚を「香り」でコントロールできるとしたら、あなたはどのように活用しますか?
人間の五感の中で、本来は別々の感覚が互いに影響を及ぼし合う現象をクロスモーダル効果といいます。嗅覚によるクロスモーダル効果は、香りによって気分を変える効果などが知られています。このクロスモーダル効果を、心理学の手法を用いて嗅覚に与える影響を調べた研究があります※1。その研究では、異なる香りの中で点の動きの速さを答えた場合、無臭に比べてレモンの香りがある時は遅くなり、バニラの香りがある時は速く感じたと報告されています。一般的に心理学分野では、「レモンは速いか、遅いか」という問いに対し「レモンは速い感覚」と答えるケースが多いにもかかわらず、実際のレモンの香りを感じたときは、動きを遅く感じたことは不思議な現象です。
未だ、「香りによって、どうして映像のスピード感が変化するのか」「変わる理由は、時間感覚が変わるからか、注意への意識の配分が変わるからか」など不明な点もあるようですが、香りの印象により何らかの形でスピード感と関連することは示されています。
さぁ、あなたも魔術を使うように、香りで時間の感覚を変えてみてはいかがでしょうか。そして、人生の変化を香りで仕上げる楽しさを感じてください。
※1 Tsushima Y,Nishino Y, Ando H, Olfactory Stimulation Modulates Visual Perception Without Training,Front Neurosci, 2021 Aug 2:15:642584.